臨床座談 楽しく語ろうクリニカル&マテリアル 40 (ジーシー・サークル 130号 2009-8より)

ゲスト
山﨑長郎先生 Masao YAMAZAKI
1945年生まれ
東京都渋谷区開業「原宿デンタルオフィス」

ゲスト
原 兆英先生 Choei HARA
1942年生まれ
東京都港区「ジョイントセンター株式会社」代表取締役

司会
中川孝男先生 Takao NAKAGAWA
1958年生まれ
東京都港区開業「中川歯科クリニック」

ジーシー
高田光明 Mitsuaki TAKADA
1966年生まれ
株式会社ジーシー機械開発部部長

 

ナンバーワンではなくオンリーワン

中川 診療空間を考えるうえで、いかにソフトウエアが大切なのかというのは原先生のお話を伺っていて分かりますね。本当にカタチは最後なのですね。

 これからの時代はニーズの変化を捉えて、それに応えるデザインでないといけません。そのなかで、「ナンバーワンではなくオンリーワン」を目指すということです。
よく、「あの先生に診てもらいたい」と話題になる先生がいますよね。それは、あの先生らしいということが患者さんに伝わっていることなのです。”らしさ”が個性で、それを表現して他の医院と差別化するのがデザインです。つまり、先生なりの理念がカタチになることでオンリーワンになっていく。ただ、山﨑先生の場合は、先生らしさではダメで、”さすが”でないといけないですね。というのは、先生を目標にされている方がたくさんいます。だから、先生に診てもらえたら「さすが山﨑先生」でないといけない。つまり、”らしさ”とか”さすが”はブランドで、オンリーワンなのです。それを意識して目標にして、トータルに考えていかないといけないのです。

山﨑 ハードルが高いですよね。

中川 診療空間をデザインするのは大変ですね。では、私たちが原先生のようなデザイナーの方に診療空間をデザインしてもらう時に、どのようなことをお伝えすればいいのですか。

 私たちは、いろいろなお話の中から、将来クリニックをどうしたいのか、何を目指しているのかなどをお聞きして、先生のお考えをしっかり受け止めます。そういうことがベースになりデザインしていくのですが、医療空間というのは先生の技術が研ぎすまされていくほど先生の姿勢が出てきます。空間に先生の雰囲気が出てくるのです。患者さんは、それを感じます。だから、人に優しい空間であるべきだし、患者さんの個人情報保護もありますのでプライバシーを確保できる空間であることも必要です。

山﨑 オフィスの設計というのは、患者さん個々への対応と同じようなものですよね。患者さんの五感に触れる心地よさというものは地域差もなく普遍的なものだから、それがオフィスデザインというカタチになることで患者さんを魅きつけることになると思います。
私のオフィスのデザインは負担も大きかったけれど、患者さんを集めるのにはすごく役立ちました。 40年近い歯科人生の中でも、こんなに来るの?という感じです。

 それは、”さすが・らしさ”だからなのです。

 

人間の五感に訴えるデザイン設計

中川 デザインが立派すぎると、ここは敷居が高そうだと患者さんに敬遠されるようなことはないのですか。

 それは先生の人柄と雰囲気が合っていないからです。合っていれば患者さんは安心して来てくれます。

山﨑 私のクリニックは「クラシックとモダンの融合」を考えて造りましたが、私の性格はざっくばらんなので、オフィスでは江戸っ子気質を出してフランクに患者さんと接するようにしています。そのコントラストが、意外にいいみたいです。

 そうなのです。完全無欠だと疲れるし怖くなる。たとえば、すごくモダンな空間でも、日本伝統の家具や骨董をひとつ置くだけで、空間が柔らかくなります。だから、山﨑先生の雰囲気がハイセンスな空間の中でも生きているのです。

山﨑 ゆらぎとか、やすらぎですね。
原さんには 10人くらい紹介したけれど全部デザインが違う。それでも、みんな成功している。さすがです。

 先生の個性がみなさん違うから当然です。私たちが大事にしているのは、先生の技術や想いを表現することで、これができないと空間デザインとしてはダメです。空間は先生の趣味ではなく外から見た先生の印象なのです。

中川 テナント開業の場合、空間が限られるし柱や梁も問題ですね。

 ビルの駆体は変えられないので、障害となるものをよく見せる工夫が必要です。「原宿デンタルオフィス」も大きな梁が問題でしたが、梁の流れを意識したデザインにすることで一体化させました。また、梁下が極端に低い 1m87cmという条件の医院もありますが、梁に幅 3mを超える継ぎ目のないミラーを貼って空間の広がりを表現したり、照明によって視覚的に奥行きを感じさせるということも可能です。
人間が視覚的に落ち着くのはグラデーションです。間接照明が好まれるのも光でグラデーション効果が出るからです。人間の五感に訴えることで心地よいものにしていくのです。

中川 私は音にこだわっていて、診療室を包むように自然の音を流しています。

 そうですね。最低でも、視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚と五感がありますから。たとえば、これからは味覚というのも考えたいです。たとえば、気持ちの落ち着くハーブティーが提供できるのも患者さんには嬉しい。

山﨑 アメリカのクリニックには、必ずミネラルウォーターやコーヒーがおいてありますが、メインテナンスや自費診療のケースなら、これからは置いてあってもいいかもしれないね。

 

国民にアピールする診療空間デザインへ

山﨑 私は自宅にはこだわっていませんが、診療室にはお金をかけたほうがいいと思っています。自分で新三種の神器と言っている、 CTとマイクロスコープと CAD/CAMは買ったほうがいいです。診療技術が格段に上がるし、患者さんへの説明ツールとしてもいい武器になります。そういうことから自分がブランドになっていくと思います。そのうえで診療空間のデザインも固まってくるのでしょう。

中川 ある意味で、我々自身の意識改革をしないといけませんね。開業医の意識のどこかに危機感があるのですが、自分たちから歯科のレベルアップを図り、国民に対しては健康なうちから歯科医院に誘うこともアピールしていかないといけない。

山﨑 そうですね。そのためにも患者さんはゲストというジーシーの考え方は重要ですね。これは我々だけではなくジーシーも含めた歯科界全体で盛り上げていかないと大きな力にはならないので、ジーシーにも頑張ってもらわないと。
ただ、これからは素敵なデンタルオフィスが増えてくると思います。なぜなら、ジーシーを始め周辺の企業がそのような方向に向かっているし、患者さんにも意識の変化が見えてきているから。だから、今回ジーシーが診療空間の提案とともに「レフィーノ」を登場させたのはとても嬉しいのです。次世代に向かってこれから歯科界が成熟していくためにも、診療空間のデザインというのは大きなキーワードになりますよね。

高田 ありがとうございます。「レフィーノ」の発売により、イオムシリーズとまた違った形で、ユニットだけでなくソフト面も含め総合的にご紹介させていただきたいと思います。

中川 さすが山﨑先生。明日の歯科界への提言というかたちでまとめていただきました。本日は、先生方お忙しいなか貴重なお話をいただき本当にありがとうございました。

 

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