去る3月初旬、グラフィックデザイン界の巨星である永井一正先生の訃報に接しました。
謹んでご冥福をお祈りいたします。
長きにわたり日本のグラフィックデザイン界を牽引し、その発展に尽力された多大なる功績に、改めて深く感謝申し上げます。

先生と懇意にさせていただいたのは2009年のこと。
コミュニケーション研究所所長の平野敬子さんの紹介で、ご自宅のリフォームをご依頼いただいたのがきっかけでした。すでにデザイン界の巨星として一家を成した大先達でありながら、初顔合わせの折には、居住まいを正して私を待っていてくださいました。「住宅のことですので、ぜひいつも通りに」と申し上げると、奥様もにこやかに同意され、それからは文字通り「普段着のお付き合い」が始まりました。律儀でありながら鷹揚で、その器の大きさが感じられる、本当に素敵な方でした。

リフォームの軸に据えたのは、これまでの暮らしを損なわないよう、レイアウトや動線をあえて変えないことでした。その一方で、年齢を重ねるなかで日々の生活を支えるための細やかな工夫を心がけました。

打ち合わせを重ねる中で垣間見えた、仕事への姿勢や日々の佇まいも強く印象に残っています。お住まいはコルビジェのLC1やフリッツ・ハンセンの椅子、カステラーニの作品や花器として使われていた古墳時代の壺など、お気に入りの家具やアートに囲まれていました。現代の造形と古代の壺が共存し、等しく成立する空間。そこには、作者の意図や想いを感じ取る確かな眼差しがあったに違いありません。

例えば、扉の取っ手や鍵の取り付け、キャビネットの設えにしても、細かな説明をせずともこちらの意図を汲み取ってくださいました。しばらく後にいただいた「特別な見せ場があるわけではないけれど、何年経っても使いやすいね」……その言葉は何よりの励みでした。

その後も折に触れてご相談をいただいたり、オフィスが近かったこともあり、街で出会うたびに近況を報告し合ったりすることもありました。グラフィックと空間という異なるデザイン領域ではありましたが、仕事に対する姿勢やこだわりにおいて、重なり合う部分が多かったと感じています。

そんな先生が旅立たれてしまいました。寂しさは募りますが、これまでの感謝を込めて。
本当にありがとうございました、永井一正先生。

ジョイントセンター代表 原兆英